2022.02.08 UP
世界的な亂獲が続き、資源管理が厳格な本マグロ。でも、お壽司屋さんに行けばいつでも食べられるし、ひと昔前は一貫數千円の高嶺の花だった本マグロが、養殖技術の向上によって身近な存在になりました。日本には大小100以上のマグロ養殖場があると言われていますが「雙日ツナファーム鷹島」もそのひとつ。厳選された餌に、整然と配置された生簀環境、そこに日本ならではの丁寧な職人技が合わさることで、「玄海鷹島本まぐろ」は一級品と言われています。何が他と違うのか、そのクオリティの秘密とは。味の追求だけでなく、サステナブルな海洋資源への取り組みも見えてきた、大人の社會科見學。
Photograph_Takuya Nagamine
Text_Keisuke Kimura
Edit_Shota Kato
福岡空港から車で約1時間30分の場所にある、島民約2,000人の長崎県松浦市鷹島。歴史好きには元寇終焉の地として知られています。松浦市はサバやアジの漁獲量が國內屈指で、トラフグの養殖も盛んに行われています?!鸽p日ツナファーム鷹島」は、そんな水産資源が豊富な漁場に位置しています。
2000年代初頭、世界的な壽司ブームが興りました。それは日本食の魅力を諸外國に伝える一方で、魚の亂獲が橫行し、本マグロは絶滅危懼種に。雙日ツナファーム鷹島は、そんな貴重な水産資源を自ら"つくる"ことができないか?と考え、安定した品質のマグロを食卓へ屆けるために、2008年に設立されました。
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當初は養殖のための生簀の數も少なく、飼育もうまくいかない、試行錯誤の連続だったといいます。そこから14年。いまでは生簀も33か所を數え、そのなかで約4萬尾の本マグロを飼育。年間で1萬尾を出荷する巨大な養殖場へと成長しました。
雙日ツナファーム鷹島の「玄海鷹島本まぐろ」は、稚魚の狀態から約3年半の歳月をかけて、平均60kgまで育てあげます。その後、鮮魚専門店や外食店向けに販売され、回転壽司チェーンやスーパーに並びます。もしかしたら、読者のみなさんも知らず知らずのうちに、雙日ツナファーム鷹島が育てたマグロを口にしているかもしれません。徹底的に管理された環境で育つマグロは旨味が濃く、赤身と脂身のバランスが優れていて、國內のみならず海外にも広く輸出されています。
?「魚は鮮度が命」とはよく言いますが、マグロは特に、獲ってから口に入るまでの鮮度管理によって大きく品質に差が出る食材です。雙日ツナファーム鷹島は、日々試行錯誤を重ねながら、鮮度管理の方法を模索してきました。そうしてたどり著いた答えは、船上にありました。
鷹島の漁港から漁船に乗り込み、15分ほどで到著した雙日ツナファーム鷹島の生簀。合計33か所ある生簀のサイズは直徑40メートル、水深は20メートルです。
マグロ漁と言えば、豪快な一本釣りや一網打盡で漁獲する巻き網漁をイメージすることが多いかもしれませんが、雙日ツナファーム鷹島では、國家資格である潛水士の免許を持つダイバーたちが水中へと潛り、顧客の要望に応じたサイズのマグロに電気銛を當てダイバーが素早く捕獲し、船上へ吊り上げます。
船上でスタンバイするほかのメンバーが、鮮度や品質の劣化の原因となる血液や內臓を取りだし、氷水へとマグロを投入。引き上げてから氷水に入れるまでの時間は、およそ90秒。この速さこそが、鮮度を保つカギなのです。そして、マグロの品質を保つためにもっとも大事なことがあります。それは、乳酸をマグロの體內に溜めないこと。
所屬する潛水士は14名。寫真に映る女性は、2021年の12月に入社したばかり。若手潛水士の育成にも注力している。
人間と同じように、マグロも筋肉を動かせば乳酸が溜まります。だから、マグロを捕獲する際に暴れさせるのは御法度。乳酸が溜まらないように、暴れる間も與えずに処理します。なお、マグロの體溫は水溫よりも高く、冬場にマグロのエラ腹抜きをすると暖かいくらいです。マグロは暴れると體溫がさらに上がり、この體溫と乳酸によって身がいわゆる「ヤケ」という狀況になり、商品価値がなくなってしまいます。
?電気銛による漁法は、釣り針に餌をつけて食いつくまで待つ、という手間も時間もかかりません。必要なのは、的確にマグロに電気銛を當て、素早くかつ丁寧にマグロをキャッチするといった熟練の技術を持つダイバーの連攜體制。このような優れたダイバーをなかなか確保できないため、電気銛の利點を理解しているものの使えない業者も多數います。だからこそ、一本釣りではなく、電気銛を使った漁法にすることで、良い狀態のままマグロを保存することが可能になるのです。
テクノロジーをバランスよく取り入れているのも、雙日ツナファーム鷹島の特筆すべき點。例えば、スマートフォンと連攜して、常時生簀の水溫をチェックできるようにしているほか、生簀內を回遊するマグロの狀況を把握できるシステム構築の準備も進めています。そうして水揚げされたマグロが次に向かう先は徹底的に管理された加工場です。
息つく暇なく、水揚げされたマグロは加工場へと移されます。そこから、いくつもの工程を踏みながら、マグロを顧客のもとへ出荷できる狀態にしていきます。
加工場へと到著したマグロは、まずはトリミングされていきます。船上では取り切れなかった小さな內蔵などを、職人さんたちが丁寧に削ぎ落としていく。こうして、マグロはきれいさっぱり、必要な部位だけの狀態になります。ほかの養殖場では、ここまで綺麗にトリミングすることは多くないといいます。なぜなら、マグロの総重量が軽くなってしまうから。
?というのも、大抵の場合、マグロを販売するときは量り売りが基本。売る側からすると、利益を出すためにもできるだけボリュームを維持したいわけです。でも雙日ツナファーム鷹島は、クオリティファースト。鮮度を落としそうなマグロの部位は一切排除。そうすることで少しでも鮮度を保ち、品質の向上を目指しているのです。その姿勢はどこまでも、真摯なのです。
?ちなみに1尾から取れる可食部(刺身用)は全體重量の約50%。50kgのマグロの場合は約25kg。刺身一切れが20gだとすると、1尾から1250切れほどの刺身ができます。
トリミングを終えたマグロは、再度氷水で冷やしていきます。そして翌日、加工の工程へ。ここからは、さながらマグロ解體ショーです。大きな包丁を使って、マグロを3枚におろしていきます。半身が欲しい顧客もいれば、もう少し小さなブロックで欲しい顧客もいる。要望に応じて、適正サイズに切り分けていきます。
例えば、1尾での出荷を希望する顧客のもとには大きな発泡スチロールに1尾ずつ入れ屆けたり、大きなタンクに氷水を張って屆けたりも。
話は変わって、加工場に到著したときに驚かされたことがあります。それは魚介類特有の生臭さがないこと。
?生臭さの原因、その正體は魚體や加工作業中に生じる殘りかすに付著している生菌。腐敗が進むことで魚の表面の菌が増殖してしまいます。それを防ぐ方法は、魚や殘りかすの菌數を抑えること。ここの加工場では、魚を洗うのも、作業臺や床の掃除も、工場內でつくられる微酸性電解水を使っています。この特殊な水が、菌を発生?増殖させない秘密です。加えて、臭いの発生も防ぎます。もちろん、私たちの體に取り込んでも安心?安全です。
?海外への発送も少なくありません。そんなときには冷凍し発送するかと思いきや、生のまま屆けます。それも、丁寧な下処理と微酸性電解水のおかげ。消費期限は2週間を保持できるから、わざわざ冷凍をする必要がないというわけです。
加工場にはクレーンなどはあっても、そのほとんどが手作業で行われていました。マグロは個體差も大きいため、トリミングや切り分けの作業をオートメーション化できないんだとか。最大限の効率化を目指しながらも、しっかりと人の手が加えられることで、高い品質を実現しているのです。
?増え続けるマグロのニーズと品質の維持?向上のためには人材の確保も欠かせません。加工場では地元を中心にスタッフを採用し、地域に新しい雇用機會を生み出しています。
海洋汚染に溫暖化、そして人口増加や亂獲。多くの問題が山積していて、少し先の未來は、いまとは食料事情が変わってくるはず?,Fに、水産資源は減少し、そのおかげで価格は高騰。サンマが良い例であり、今ほど高値になるとは、20年前には誰も想像していませんでした。
?だからこそ、備えが大切。自然の力に任せるのが一番良いかもしれませんが、それでは安定した食料の供給はできないし、水産資源の回復は見込めない。技術の粋を結集させた養殖の技で、自然環境へ負荷をかけずに食料を安定供給し、同時に亂獲を防ぎ、海にまた魚が戻ってくる。養殖は、確実に持続可能な社會の一助となります。
これまで世界中から天然マグロを買い付けていた日本、これからは日本から世界に『おいしい』マグロを育てて屆ける時代に加速していきます。試行錯誤を経てたどり著いた、雙日ツナファーム鷹島の自らマグロを育てるというアイデア。長崎で育つサステナブルマグロは、次の世代に「おいしい」を繋いでいきます。
雙日ツナファーム鷹島
2008年に設立した本マグロ養殖會社。 長崎県松浦市鷹島の豊かな自然に恵まれた漁場で現在約4萬尾の本マグロが肥育されています。
同社は本マグロを約3年半で平均60㎏程度に丁寧に育て、鮮魚専門店や外食店向けに販売しています。
雙日ツナファーム鷹島
https://www.sojitz-tunafarm.com/